第二話:冷たい男

21/40
前へ
/195ページ
次へ
結婚指輪を失くしたとあっては、そりゃもう泣きたくもなるだろう。 私は結婚していないけれどその気持ちは理解出来る。 「大切な形見なんです」 「えっ」 「主人は去年交通事故で亡くなってしまって……、主人がつけていた指輪はずっとチェーンに通してネックレスにしていたんですけど」 だからずっと胸元を握りしめていたんだ。 ネックレスにしていた指輪が揺れていた場所が、きっとその辺りだったのだろう。 彼女の気持ちを思うと、是が非でも指輪を見付けてあげなければと必死に探した。 しかし、休憩所を離れ、脱衣場や通路など色々と探し回ったけれど指輪は見付からない。 「……ありがとう、百合さん。もう諦めます」 「でもっ」 「指輪が見付からないってことは、きっと主人が忘れろと言っているのかもしれません」 そう呟いた佳奈(カナ)さんは、溢れそうになった涙を指で拭って、自分の指に嵌められていた指輪を抜き取った。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加