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「佳奈さんっ」
「この温泉も主人とデートで来た思い出の場所だったんです。そこで指輪が消えたのはきっと――」
そこまで言って唇を噛みしめた佳奈さんに、私はそっと手を添えた。
「今日はホテルに泊まられるんですよね?」
「はい」
「指輪は私が見付けて明日帰られるまでに必ず佳奈さんの元へ届けます。だから……その指輪はまだ指に嵌めてあげてください」
私の言葉に佳奈さんは我慢していた涙をボロボロと流しながら、ありがとうありがとうと泣き続けた。
*****
「――で?」
「で……って」
佳奈さんと約束を交わしてからしばらくして、戻って来たシンに事のあらましを説明すると、そんな短い言葉が返ってきた。
腕を組み、これ以上ないくらい眉を寄せたシンは、完全に不機嫌を全身に纏っている。
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