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「副社長さんは二回以上宿泊されたお客様の顔と名前を覚えているそうで、主人のことも覚えてくれてたんです」
シンの意外な特技に……いや、意外でもないような気もしてきたけれど、再び目を丸くする。
「いつも私より先に温泉から上がっていた主人は、ギャラリーにある作品を見て時間を潰していたそうなんです。私、副社長さんから聞いて初めて知って……」
形見の指輪を指先で摘まんで目線の高さに持ち上げた佳奈さんがふわりと笑う。
「もしかしたら今回もまたギャラリーで時間を潰していたのかもしれませんね」
あぁ、そうなのかもしれない。
ううん、きっとそうなのだ。
優しい笑顔をした佳奈さんとキラリと光った指輪を見て、私はそう信じることにした。
「――ご利用ありがとうございました。是非また起こしくださいませ」
深々と頭を下げ、大切なお客様をお見送りしたこれが、私の副社長秘書として最初の仕事だった。
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