第二話:冷たい男

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こんなこと、まだ付き合いの浅い相手に言うことじゃないのかもしれない。 だけど―― 「マコトさんには楽しくて笑って欲しいから」 これが本音。 付き合いは浅いけれど、マコトさんが他人を思いやれる優しい人だってことは分かる。 人格障害があることで周りに迷惑を掛けているのだと自覚し、きっと自分はわがままを言ってはいけない、と気持ちを押し殺しているのだと思う。 だから何があっても笑顔でいよう、と決めているのかもしれない。 だとしたら、それは悲しいことだから。 「偉そうなこと言ってごめんなさい。でも私――」 「百合音さん……」 ありがとう、と囁くように呟いたマコトさんはうっすらと涙を浮かべ、でもふわりと私の好きな笑顔で笑ってくれた。 その笑顔に、胸につかえていたものが取れたような気がして私も自然と笑顔になる。
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