第三話:置いてけぼりの想い

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私がトレジャーランドの副社長秘書として働き始めて数週間。 基本的に私はシンを相手に仕事をしていた。 冴子さんから聞いていた通り、マコトさんは私が触れて強制的に交代させる以外では現れないし、現れても気付いたらシンに戻っていることも稀ではなかった。 「副社長、アウトレットモール班から届いている要望書です」 「…………」 書類を無言で受け取られることも慣れた。 わざと冷たくしているのではなく、これがシンにとって普通なのだと分かってきたからだ。 そんなシンが書類に目を通しながら眉を寄せた。 要望の内容が厳しいものなのだろうか? けれど突っ込むことはしない。 出過ぎた真似をせず、シンが副社長としてやり易いよう影のように動くことが私の仕事だからだ。 「モールの巡回へ行く」 「かしこまりました」 スッと席を立ったシンのために副社長室の扉を開け、私もそのあとに続く。
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