第三話:置いてけぼりの想い

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ベンチに陣取っている彼の前に立ち、勇気を振り絞って声を掛ける。 「突然申し訳ございません。私、こういう者ですが」 本日三枚目の名刺を取り出し彼の前に差し出すと、彼は不快そうに眉を寄せながらも名刺を受け取ってくれた。 名刺を眺める彼に、トレジャーランド副社長秘書であることを念のために伝えると、彼はハハッと空笑いをした。 「とうとうおいでなすったか」 その言葉に、彼がそのうち警告を受けるだろうと分かった上で、それでも毎日こうしているのだと理解した。 「事情をお伺いしても?」 「あぁ。ここじゃ目立つからどっか場所を提供してくれねぇか?」 ごねることなくスッと立ち上がった彼に、私は判断を仰ぐため視線をシンに向けた。 シンはコクンと頷き、付いて来いと言うように背中を向けて歩き出した。 「こちらへどうぞ」 その背中を追うべく、私も彼に付いて来るよう促した。
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