第三話:置いてけぼりの想い

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この人はなんて勝手なことを言う人なのだろうと、苛立ちが込み上げてくる。 美咲さんが父親の顔を覚えていないくらい小さな頃に離婚して放っておいたくせに、今さらなんだと言うのか。 もしかして、美咲さんがブランド店舗で働いていることを嗅ぎ付けて、お金の無心にでも来たのかもしれない。 田辺さんの身なりを見てそう思った私は、完全に頭が沸騰していた。 「帰ってください」 「は?」 「美咲さんに会わせることは出来ません。このまま帰って二度と顔を見せないで」 ギリギリと歯を食いしばり、田辺さんを睨み付ける私の頭にシンの手が乗せられる。 「失礼しました」 シンの謝罪の言葉と同時にそのままグッと手が押され、私は無理矢理頭を下げる形を取らされた。 じわりと涙が込み上げる。 どうして私がこんな男に頭を下げなきゃならないんだろう……、美咲さんの気持ちを代弁しただけなのに。 そんな想いが胸の中を駆け巡っていた。
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