第三話:置いてけぼりの想い

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両手を広げて肩をすくめるシンは、呆れていることを大袈裟に表現して見せた。 うるっと目に涙が溜まる。 いつもシンの言うことは正しい……正論だ。 もし、田辺さんが他人の気持ちを理解出来るのならば、お店の前で奇妙な行動を取ることもなかったし、そもそも美咲さんが産まれてから離婚をすることすらなかったのかもしれない。 人はみんな他人の気持ちを分かったつもりでいるだけで、本当のところは分かっていないのだ。 勝手に気持ちを解釈して、自分が納得すればそれでいいのかもしれない。 「美咲さんは“お父さんに会ってみたい”と言っていました」 シンの言葉に、えっ?と目を見開いた私は、田辺さんと同じ表情で驚きに肩を震わせた。 「仕事が終わったら会ってくれるそうです。そのメモに書いてある居酒屋で待っていてください」 シンに手渡されたメモを見て田辺さんは涙を浮かべ、震えた声で「ありがとう」と呟き頭を深々と下げた。
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