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私は父親の顔を知らない。
物心ついた時にはすでに母と二人で暮らすことが当たり前の生活になっていて、父親という存在は私の中で“不必要なもの”という認識ですらあった。
それは、母の苦労を見て育ったからかもしれない。
一度だけ聞いた父親との馴れ初めはドラマチックだったけれど、私を身籠ったと知ったあとの父親は最低な男の代表とも言えるものだった。
「……私を……母のお腹に植え付けるだけ植え付けて……無責任に逃げた男に“会いたい”だなんて……思えると思う?」
「…………」
「そんな男を“父親”だなんて……思えるわけないじゃない」
ボタボタと床に落ちた涙はどんどんくっついて、小さな小さな水溜まりのように形作った。
そこに写る自分の姿が汚らわしく見えて、シャッと手のひらで払う。
無責任な最低男の血が自分の中にあると思うだけで吐き気がするからだ。
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