第三話:置いてけぼりの想い

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そんな男の血が通った私を必死で育てて早死にした母を思うと、悔しさに似たモヤモヤした感情が私の胸を苦しくさせる。 「……百合」 「触んないでっ!」 バチっと手が弾かれた。 私に触れようとしたシンの手を、私が手の甲で弾いたからだ。 人格交代が起こる。 今は有り難い状況だ。 「……百合音、さん?」 優しい声色の中に、心配するような戸惑いが見られた。 マコトさんだ。 そう思うと同時にその胸の中に飛び込んでギュッとしがみついた。 「ゆっ百合音さん……どうしたんですか?」 驚いたのか体を固くしたマコトさんだったけれど、しばらくするとポンポンと私を安心させるように背中を撫でてくれた。 その優しい撫で方が母を思い出させ、私の涙は止まるどころか再び溢れてしまった。 けれど、この涙は悔しさや悲しさからくるものではなく、嬉し泣きに近いものだったので苦しさはもう消えていた。
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