第三話:置いてけぼりの想い

31/31
前へ
/195ページ
次へ
シンが食事に誘ってくるのは初めてだ。 冴子さんやマコトさんとはよく一緒に食べるけれど、シンは仕事とプライベートをしっかり分けるタイプらしく、仕事が終われば「お疲れ」と言ってさっさと自室へ戻ってしまう。 「もしかして……泣かせたお詫び、とか?」 「…………」 「え」 いつものシンなら「は?誰が泣かせたんだ」とか反論してきそうなものなのに何も言い返してこないところをみると、私を食事に誘った理由はそれなのかもしれない。 「シンのせいじゃないよ?」 「いいから時間通りに来い」 珍しく照れたように目を泳がせたシンに言葉が出ない。 それでもいつものように凜とした佇まいで去って行ったシンの背中を見送りながら、あと数時間後に訪れる夕食に頬を緩ませ、私もホテルの自室へと戻ったのだった。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加