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戦時中に進学し、女学校を終えた幸子は小学校の新米教師として赴任した。
まだ十代のお嬢さんが子供たちを教えた。本人はとうに大人のつもりだから、他の先輩に混じって少しでも追い付きたくて精一杯背伸びした。
戦時色が強い中、教育現場でも軍国主義を絵に描いたカリキュラムを指示された。
お上からのお達しは全て正しい。
右から左へ流れるように、言われるままに子供たちに教えた。
小さい子供は好きだった。ひたむきに言われるがままに学び、吸収していく彼らを幸子はつたないなりに愛した。
個人の主義主張が許される時代ではなかった。時折、「これでいいの」と悩む場面も多々あった。
けれど、私は命じられるままに教えているだけ。
深く考えちゃいけない。
感情を持ってはいけない。
世の中の流れに逆らえないのだから。
思い入れを強く持ちすぎると、自分が傷付く、誰も助けてくれない――
幸子の中には、何事にも、どこか遠くで見るような、他人事のような目を持つ自分がいる。
いつからそうなってしまったのか。幸子は良くわかっていた。黒い目で彼女を見つめていた存在が失われた日からだ。
忘れられないことは思い出さなければよい。
従順に何事も受け入れれば傷付く心を持つこともなくなるのだ。
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