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判で押したような笑顔の影で、大人になろう、聞き分けよくなろう、良き国民になろう、と自分に言い聞かせた。
また、慣れない仕事は彼女を良くも悪くも疲れさせた。余計なことを考える余地はなかった。
毎朝、6時前に家を出て、歩いて30分かけて勤務先の学校へ行く。もうすでに校長や教頭、先輩の先生方は到着している。校門前を掃き清めている校長の脇を通るのは気がひけた。
少しずつ起きる時間を早め、校長とほぼ同じ時間に校門をくぐり、掃除の役目を請け負えるようになった頃の出勤時間は朝の5時半を少し回ったあたり。手をせっせと動かした。校長たちは何時に起きているのだろうと思いながら掃除した。
そんな彼女に、「よく頑張っているね」と毎朝声をかけてくれたのは隣の席に座る男性教諭。幸子より五つほど年上の、爽やかな顔立ちが印象的な人だった。
男女七歳にして席を同じくせず、と親や回りから固く言い渡されていた通り、彼女は異性の友達もいなければお付き合いなどしたことがない。女学校出なのだから、出会いがなくて当然だ。
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