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結婚やお付き合いは、いつか年頃になったら親が決めた相手と見合いした時にすればいい。年上の姉や兄たちも、他の親戚も皆そうしていた。自分もそれに倣えばよい、と思っていたから、うんと年上の校長や教頭などならいざ知らず、彼にはどう接したらよいのか、迷った。
でも、素敵な人だった。毎日、学校で顔を見れるだけでうれしかった。
わからないことを聞いても、面倒くさがらず教えてくれる、そのやさしさに強く惹かれた。知れば知る程、彼の賢さに舌を巻いた。
「野原君」が「幸子君」になり、「幸子」と名前だけで呼ばれるようになった頃、ふたりきりで会うようになった。
毎日彼のことばかり考えた。
これが人を好きになるということ。恋するということ? と気づいた時、他の誰も見て欲しくないと強く思った。
たくさんの時めきを教わった。
好きだと思った時、ふたりきりで歩く道すがら、心の奥にしまい込んでいた思い出、大切にしていた存在、コロのことを話した。何も口を挟まず、聞いていた彼は、彼女が言葉に詰まり、話せなくなった頃に「かわいそうだったね」と言った。
涙が頬を伝う、あたたかい滴は、喪われたものへの哀惜ではなく、自分が心を許しかけている男からの言葉に心を動かされ、悦んでいる涙だった。
この人はやさしい。
私のことをよくわかってくれている。
好き。
彼が好き。
私、彼を愛してる。
あやすように肩に回された手のあたたかさが嬉しくて、甘えるように泣いた。
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