【2】 拙さ

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◇ ◇ ◇ その出来事から日を空かず、幸子は求愛と求婚を受けた。 彼女は両親に求婚されたことを告げた。 親は、特に父親は聞いた途端に雷を落とし、絶対駄目だと取り合わなかった。自宅へ挨拶をしに訪問した彼にも会わなかった。 私が好きになった人を信じて、と、母を説得し、母に同じく父が説得されて、やっとのことで両親は彼と会ってくれた。 これは、回りの人の口利きも若干なりと影響していた。このご時世では、若い男はいつ戦地へ取られるとも限らない、帰ってくる保証はないと言っても過言ではない。彼はまだ年若い。いつ召集があってもおかしくない。 実際、幸子と同じ時期に卒業した同級生たちは半数以上が結婚し、兵隊さんの妻として、わずかな結婚生活の後に夫を戦地に送った。中には名誉の戦死を遂げた者もいた。迷っている暇はない。 適齢期の男子を持つどこの家庭も結婚を急がせる。幸子はまだ若いが、早すぎることはないだろう、と。 ならば嫁になど出さなければいい! と吠えた父の文句は回りに圧されて消えた。 それからほどなくふたりは婚約、学校が年度末で休みになるのを待って結婚することになった。 正味一年で勤めた学校を辞める。 女は結婚したら家庭に入るもの、迷いはなかった。たった1年で別れを告げることになった子供たちには、ごめんなさいと一人一人に詫びた。 きっとこんな新米先生のことなど彼らは忘れてしまうに違いない。さびしかった。やっと仕事が楽しくなってきた頃だったから。 けれどこれが女の生きる道だもの。 それより、彼の隣に立てる自分が嬉しかった。
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