【２】 拙さ

結婚式当日は、雲行きのあやしい朝だった。

雨が降らなければどうということもない。この日の為に仕立て直した一番の着物を着て、彼の元に向かった。

贅沢は出来ないなりに両親は花嫁衣装をしつらえてくれた。しあわせだった。

常々親は言っていた、結婚はするもの。好き嫌いは関係ない、嫁いだ先に尽くすのが嫁のつとめだと。そして子供を産む。後継ぎを残す。

彼女だって年頃の女性だ、親から言い尽くされてきたことを受け入れるのが女の役目と思ってはいたけれど、やはりどこかで、違う、それは嫌だと思っていた。

どうせなら愛する人の元に嫁ぎたい、小説や物語のヒロイン達のように、愛されて望まれて幸せに暮らしたいという夢を持つなという方が無理だ、でなければ山程ある物語は願いが叶わなかった女達を慰めるための夢物語の群像となってしまう。

けど、私は物語のお姫様とは違う。

高砂に座り、うつむく彼女は輝いていた。

茶色いスズメのような地味な少女と言われ続けていたけれど、私だってきれいになれるんだ。嬉しかった。

両家の親戚一同が揃う中、式も終わりを迎えた頃だった。

にわかに玄関先が騒がしい。

最初のうちは囁くような声で内緒話をしているようだったのに声がどんどん大きくなる。

新郎の親族が呼ばれ、親が呼ばれ、ついには新郎本人も席を立った。

主賓が外した場は白け、何とも落ち着かない空気が流れる。

「何があったのかしら」

ひそひそと、彼女の側の参列者から声が上がった時だった。「娘を孕ませた責任を取れ！」と男性の罵声が上がったのは。

孕ますとはまったく穏やかではない。参列者は一様に顔を見合わせた。