【2】 拙さ

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◇ ◇ ◇ それから後に様々な人の口から出された言葉の一つ一つに彼女は傷付いた。 新郎は、彼女をかばうどころか次々と信じられない言葉を吐いた。 貞操に緩い女だった。 身持ちが悪かった。 他の女で慰めを得るしかなかった―― それもこれも事実無根もいいところだ。 新郎の兄も同様だった。 男を誘ってきた。 抵抗したが、彼女が許さなかった。 男慣れしていた。 そして、ぽつりと言った。 「生娘じゃなかったぞ」 本来、裸は身体を許した人以外に晒さないものだ。男性の前ではさらに。彼女は今まで他の男性と付き合ってきたことは一度もない。もちろん、肌を許したことなど。そもそも、男女の営みにも疎いのだ。 小説にはそんなこと書かれていないもの。 生娘って、何? 私の純潔を疑うの? つい先刻、自分の身に起きたことを思い出す。 無我夢中で暴れたけれどもしかしたらあの時、私は操を喪ったのだろうか。 だとしたら、相手はあなたじゃないの。 なけなしの勇気を振り絞って、新郎の兄を睨んだ。 一瞬怯んだように見えたのは、どこかにやましいことがあるからだ。 何か言ってやりたい! 口を開こうとした時、新郎がぼそりと彼女にだけ聞こえるように言った。 「何がコロだよ」 散々な一日、中でも一番堪えた一言だった。 心の奥底にしまいこんだ本当に大切な存在は、絶対に他人に語ってはならない。 ――人を、男を、信じちゃいけない。 彼らは私を傷付ける存在だ。 私を大切に、愛してくれる者たちではない。 だって。 一番効果的な時を狙って、一番打撃を受けるよう石つぶてを放つ。 ――どこに愛があるというのか。 私は。泣かない。 こいつらの前で弱みを見せるもんか。 涙だって見せてなんかやらないんだから! 彼女の頭を飛び越してお互いを詰る大人たちの声を聞きながら、早く終わるといい、こんな茶番。おうちに帰りたい、と幸子は思っていた。
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