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今住んでいる部屋が手狭になったので、部屋探しを始めた。
二部屋以上あって、ペット可で、出来ればあまりこちらの事情を詮索してこない環境がいい。あとは駅が近くて買い物とか便利そうな……
「そんな都合のいい物件、あるの?」
「目標は高く、あとはどれだけ妥協するかだ。シロ、コーヒーいれてくれ」
「わかった」
俺の大きなシャツが、まるでワンピースのようになってしまう程小柄な子どもが、抱えていたもふもふの猫を床に下ろし、流しへと歩いていく。
猫も子どもも、俺が拾った。
雨の日のゴミ集積場で倒れていた子どもと、それを守るように動く猫。
警察や救急に連絡しようとは思わなかった。
理由は至極単純なこと。
子どもの右手の甲に『WH-17E』という烙印が押されていたから。
猫の攻撃にあいながらも、子どもを抱えて部屋に連れ帰り、手当てし看病した。
目を覚ました子どもに、名前や、どこから来たのか等を尋ねれば、答えはすべて“わからない”。
何故あの場所に倒れていたのかも、猫がそばにいる理由も“わからない”と言う。
記憶喪失。
子どもにとっては、忘れてしまったままの方が幸せかもしれない。
子どもの手の甲の烙印は、とある施設での、実験体だった証拠なのだから。
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