第1章

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 今住んでいる部屋が手狭になったので、部屋探しを始めた。  二部屋以上あって、ペット可で、出来ればあまりこちらの事情を詮索してこない環境がいい。あとは駅が近くて買い物とか便利そうな…… 「そんな都合のいい物件、あるの?」 「目標は高く、あとはどれだけ妥協するかだ。シロ、コーヒーいれてくれ」 「わかった」  俺の大きなシャツが、まるでワンピースのようになってしまう程小柄な子どもが、抱えていたもふもふの猫を床に下ろし、流しへと歩いていく。  猫も子どもも、俺が拾った。  雨の日のゴミ集積場で倒れていた子どもと、それを守るように動く猫。  警察や救急に連絡しようとは思わなかった。  理由は至極単純なこと。  子どもの右手の甲に『WH-17E』という烙印が押されていたから。  猫の攻撃にあいながらも、子どもを抱えて部屋に連れ帰り、手当てし看病した。  目を覚ました子どもに、名前や、どこから来たのか等を尋ねれば、答えはすべて“わからない”。  何故あの場所に倒れていたのかも、猫がそばにいる理由も“わからない”と言う。  記憶喪失。  子どもにとっては、忘れてしまったままの方が幸せかもしれない。  子どもの手の甲の烙印は、とある施設での、実験体だった証拠なのだから。
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