からくさ 新章

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カラ…と、グラスが音を立てる中 マスターが息を深く吐き出した。 「湊、洗脳とかさ、催眠術とかさ…その手の類を掛けられてると 考えたら結構この話納得いかない?」 「…ありえるのか?そんなもの」 「解らないけど…あれだけ大事にしてた俚乃ちゃんを忘れるだけならともかく 他に彼女を作るとか、ありえないと思うんだ。 今までの湊はまぁ、時にはやんちゃだったけど そこまで酷い人間じゃなかったし、恐らく今もどうして良いか解らないでいると思う。」 そこまで言い切ると、ハーと溜息を吐く。 「鍵谷と逢わせるのか?」 「…それを悩んでて貴方に電話したんです」 「そうか…だがな?昼の会見の再放送で、アイツ倒れたんだ」 「え?」 「張り詰めてたんだろうな…連絡もずっと来ない中 大丈夫って言い聞かせてた自分をあんな形で 裏切られたら、鍵谷だっておかしくなっても無理はないさ」 「…それ、ホント?」 背後から聞こえた声に、一也はしまった!と心で思いながら 苦笑いを湊に向けた。 「お前の気にすることは、それより先に鍵谷を思い出す事だ」 「でも、倒れてどうしたの?今どこにいるの?独りじゃないの?」 「ほら、お前が気にしたって仕方がないんだって… 記憶のないお前に鍵谷を無理に任せようなんて思ってないから 落ち着け」 「でも、その子一人なんでしょ?誰か側に居てあげなくていいの?」 はぁ、と息を吐き出し、一至が湊の肩をポンと叩く。 「湊…そこはお前が気にする所じゃないよ お前には今の電話の相手がいるんだ その相手の事と自分の事と思い出したい記憶を呼び覚ますのが先だ」 「鍵谷は問題ない。」 「なんでそう言い切れるの?無理だよ、倒れるほど…そうか 倒れるほど俺を思ってくれてるのか」 悲しげな目で言う湊に心底、どうしたものかと思う。 けれど… 「だから、お前が違う女を思いながら鍵谷と会う事を俺は許したくない だったら一人で居させるほうが幾分ましさ、それに奈津子が電話してるはずだから無理はさせないようにしている」 唇を噛みしめた湊がぼやく様に吐き出した。 「…なんで俺、覚えてないんだよ」 と、湊が椅子に腰を掛けると頭を抱え込んだ。
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