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一也が自宅の扉を開き、パタンと閉まるのと同時に
パジャマ姿の奈津子が、一也に抱き着いた。
「おい…」
「ごめん、なんか俚乃見てたら切なくて」
目を腫らした奈津子がぐりぐりと押し付ける頭を
何度か撫でると、確かにと思い至ったのだろう。首を一度上下させた。
「あぁ、そうだな…ちょっと厄介なことになってたぞ」
「え?」
全てを語ると、奈津子がポロポロと涙を流し
泣き伏せてしまった。
俚乃が可愛そうだと何度も呟きながらそれを
彼女に伝えるのが酷だと、酷く心を痛めていた。
「お前よりもっと、悲しむ事になるんだろうな…鍵谷は」
と、暖かく抱きしめた一也に、泣き崩れて翌朝を迎えた。
今日は土曜日、会社が休みなので
二人で俚乃の家へと出かける事になった。
本当にどうしていいのか解らない。
手伝いたくても何も出来ない歯痒さだけが
奈津子を無力に感じさせていく。
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