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「俚乃ぉ~あんた良い子過ぎ!文句の一つでも言ってやんなさいよ?
火のない所に煙は立たないんだからっ!」
「奈津子、お前が心配しても、鍵谷は信じてるんだから
お前も信じてやれ、そこまで腐った男じゃないだろう…」
と、横で盛大なため息を吐きながら一也が酒を煽った。
「一也は、あの人と仲がいいもんね!男同士の友情?
あーあ、一也も浮気するのかな~?」
「しねーよ!グダ巻いてないで、大人しく飲め!」
と、部長節が響き渡り、シュンとなった奈津子に
よしよしと俚乃が頭を撫でる。
すまんなと、声をかけてもらって、イエイエと首を振ったものの
不安はやっぱり胸にあって
深く溜息を吐き出した。
家に帰った俚乃は
またいつものように鍵を靴箱の上へ置き
入口に腰を下ろして靴を脱いだら、動くのが急にだるくなった。
信じてる…信じてるんだ。
と、何度も呪文のように心の中に唱えた。
それなのに、湊からの連絡は一向になくて
安心を貰えないまま、帰国予定日を迎えていた。
そう、湊はその間一度も俚乃に連絡をして来てはいなかったのだ。
携帯を握り締め、その日一日を上の空で過ごし
既に夜になろうとしている今
連絡を待っているだけではなく自分も連絡を入れてみようと
徐に携帯を開いて電話を掛ける。
飛行機だったら電源が落ちているだろうし
繋がるなら、次に会える日を決めて貰おうと
発信ボタンをおした。
「もしもーし、湊の携帯ですよ~♪どちら様ですか?」
「あ、あの…」
「え?女?あんた誰?」
「…鍵谷と言います…あの、湊さんは?」
「え?あぁ、湊は今シャワーよ?かけ直させる?」
「…いえ、いいです、すみません」
繋がるという事は…彼は日本に戻っているのだろうか?
そして、女性が側に居る事は解った
けれど…あんな噂信じちゃダメだよ
そう自分に言い聞かし、携帯をじっと見つめた。
かけ直させると聞かれ、咄嗟に断ったが…かけ直してくれると信じていたのに
夜の帳が朝焼けに消されてもその携帯は鳴らなかった。
翌日、寝不足のまま会社に行くと
奈津子が昨日は会ったのかと質問を投げてくるのを
解っていたが、それに胸を痛めながら首を左右に振った。
「どういう事?」
「…わかんない」
電話の女性の話をして
唇をキツく噛み締めた。
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