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【ポルゾ】
昼に、珍しく鍵を開けてくれと電話をかけて来た湊のために
マスターは鍵を開けると、湊の来訪を待った。
問い質すべきか、知らない顔をするべきか…
恐らく俚乃は、相当なダメージを受けただろう記者会見を
マスターも同じように見ていたのだ。
カランと鳴り響いた扉から
深く帽子を被った湊が姿を現し
苦笑いでお帰りと告げた。
「久しぶりだね、一至」
湊に名を呼ばれるのも久しぶりだなと苦笑いをする。
相楽一至(サガラ カズシ)と言うのが、彼の本名
普段はマスターとかふざけて店長と呼ぶのだが
客が入らないときは名前でお互いを呼んでいた。
「あぁ、一ヶ月ぶりか?」
キュッと拭き終えたグラスを棚に戻すと、また新しいグラスの
水滴を綺麗に拭いながら、湊の出方を待った。
「会見見た?」
「あぁ、見たよ」
「そう…あっちで彼女出来ちゃってさ
もう少しで日本に来るんだよねだから、今度連れてくるよ」
と、はにかむ湊に溜息を落とした。
「連れて来るのは良いけど、俺は俚乃ちゃんを応援するよ?」
「…俚乃?って、俺のファンとか?」
「は?」
湊の言葉に耳を疑った。
一ヶ月前まであんなにベタ惚れだった彼女を
既に気持ちの中で抹消してしまったのだろうか?
「俚乃ちゃんを覚えてないのか?」
「…いつ、会ったっけ?」
「…お前さ、あっちで事故とかに遭ったとか?」
「は?遭ってないよ?至って普通に撮影して戻ってきたけど
どうしたんだよ?」
「お前、俚乃ちゃんの記憶が無いって言うのか?」
「その名前思い出せないだけで、顔見ればわかるかも…
ここで会った事ある子なんでしょ?」
その言葉に、一至は愕然とした。
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