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グラスを拭き終えると、一至は湊の横に腰を下ろした。
「パリで会った彼女って、どう言う子?」
「え?ん~まぁ、可愛いかな…俺が初めて本気になった子かも」
その言葉に目を見開いたのは一至だった。
「お前、俚乃ちゃんと出会った時にもそれ言ってたぞ?」
「は?ないない!何言ってるの一至。」
完全に忘れてると言ってもおかしくない言葉。
ハーと息を吐き、ちらりと湊を見やった。
「この話を聞いてお前がどう思うかはわからないが
俚乃ちゃんの事話したい」
「…俺に?」
「お前の彼女だからな」
「は?」
「お前がどう言う経緯で忘れたかは判らないが
一ヶ月前までお前の、松平湊の彼女だった子だよ…」
「ま、まさか?」
額に一筋の汗を流し、困惑したような目で
一至を見るが、どうやら嘘ではないと言うのが理解できると
今度は湊の方が頭を抱えた
「ちょっと待ってよ…なにその、俺は全く知りませんって言う状況…
リオンと、正式に付き合ったのは一ヶ月も前なんだよ?
そんな、その間に彼女を忘れるとか…ありえないし
なに、ドッキリか何か?」
自分の頭の中に何も浮かばない。
何も出てこない
「聞け、湊…お前との出会いから全て語ってやるから」
「…き、聞いたって、俺はどうにも出来ないよ?リオンと
俺は付き合うと言ってしまった…そんな二股みたいなこと出来ないよ」
「湊、二股と言うんであれば…パリの女のほうが二股になるんだぞ?」
「…本当に俺と付き合ってたの?その子…」
「…本人にそれは言うなよ?それでなくても前の彼氏に浮気されて
別れるどころかストーカーみたいにされて傷を負ってるんだから」
その言葉に目を見開き、それはリオンの事だと言い出す湊に
一至は言葉を失った。
湊は困惑しているようで、どうしてそんな事になっているのかと
本気で悩んでいるようでどうにか湊の記憶が戻らないかと
考えた所で結果は見いだせなかった。
一つ考えが思い至って、一至は携帯をおもむろに出した。
「坂本さんに電話してみる」
「え?坂本一也?」
「…その名前は覚えてるのか?お前の彼女の上司だぞ?」
「え?…どうやって知り合ったっけ?」
湊が頭を抱えるが
どうしたものかと、一至も苦悩の表情を浮かべる事となった。
少しでも何か状況を打破できるならと
一至が坂本の携帯を鳴らした。
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