第1章

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初日は強い雨だった。 天気予報で一週間も前からわかっていたことだったが、着陸ぎりぎりまで雨雲が切れないかと窓の外を眺め続けた。 しかし残念ながら雨が止むことはなく、ホテルまではタクシーで行き、チェックイン後一歩も外へ出なかった。 食事はホテル内のレストランで取り、終わるとすぐに部屋に戻った。 ベッドに座って見たことのない沖縄のローカル番組を聞きながら、バッグの中のスマートフォンを取り出そうとしたとき、大変なことに 気が付いた。 通勤用の軽いナイロンバッグをそのまま旅行に持ってきたため、社員証のネックストラップを入れっぱなしだったのだが、今見るとそれ がなくなっているのだ。 あわててバッグの中を全部ぶちまけたが、なかった。 チェックイン時には、確かにバッグの中にあった。 ということはホテルに入ってから落としたことになるのだが。 「やっばい。始末書ものだ」 社員証の紛失はかなり大きなペナルティがつく。 上司の無言の圧力顔が脳裏にちらついた。 せっかくの旅行を、こんなことで台無しにしたくない。 とにかく、まずホテルに入ってから歩いたところを逆順に探してみるしかない。
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