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検校と言う全盲者の天辺である官位持ちと言う事も有り、男谷家と勝家は取り潰しから免れて居るが。
「まだ、そンな歳じゃ……」
「家を守るってのは、そう云う事った。いざとなりゃ、妾でも作りゃ良いんだから」
極端な物の云い方をするが、当時としては普通。
跡継ぎを産ませる為には、手段が幾つも有った。
「と、云う事は……。お奉行も?」
口を湿らす為か、根岸は含んだ汁を盛大にドンブリへ戻す。
「こいつは、とんだ藪蛇だったな。けどよ、それが家を継ぐってもんだ」
田嶋の場合、家を継いだとは云え出発点は同心。
それを、この二人は知るまい。
「辛気臭くなっちまったな。蕎麦だ、蕎麦。早く食わねえと、延びちまう」
こと食い物となれば、根岸は子供の様に無邪気になるらしい。
脇目も振らずに蕎麦を啜る姿は、在る意味微笑ましかった。
二
根岸と主馬が蕎麦を手繰った、その夜。
心斎橋近くの小橋で、男女が揉めていた。
痴話喧嘩か別れ話の縺れか。
激しく言い争い揉み合う様は、ただの喧嘩とは思えない。
だが、その言い争いは夜に吸い込まれて聴こえ辛く届かなかった。
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