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一
田嶋が土の下へ埋められて五年余が経った文化二年。
寛政十年から享和を四年と跨ぎ、南町の小石川養生所方。
例繰方与力として書類整理ばかりして腐っていた田嶋主馬は、南町奉行として赴任していた根岸肥前守鎮衛の呼び出しを受けた。
「御無礼致します。お奉行、如何なる御用に御座いましょうか?」
身分は格下と云えど、同列なのが幕臣。
一礼すれば、頭を上げるのさえ問題は無い。
「まあ、そんなに堅苦しくなるな。どうだ? 蕎麦でも」
田嶋と仲が良かった所為か、根岸は主馬に対して蕎麦だの何だのと理由を付けては連れ出して歩く。
「お奉行……。それは良いですから、この書類の山。なンとかして下さい」
根岸の机の上には未決の書類が山と積まれ、可決書類は微々たる物。
「そう云うなよ。鴨南付けるから」
こう云うサボり癖は、何処と無く田嶋を思い出させる。
「父みたいな事を申さねェで下さい。判例が綴じれねェンですから」
とは云え、書類整理ばかりで腐っていたのも事実。
結局、根岸に押し切られ主馬は供連れとして蕎麦屋へ行く羽目になった。
「それで……? お話と云うのは?」
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