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むさ苦しい道中の中、主馬が根岸に問い掛ける。
「慌てるない。それは蕎麦でも手繰りながら、ゆっくりとな」
なにやら意味深な発言だが、こう云う秘密めかした云い方をするのは田嶋の影響か。
「気になります……!?」
話をしながらも注意力は周りを気にしていたのか、視線が右前方の一点を見詰める。
若い、と云うには年食った。
やや四十絡みの男が、三十後半代の商人らしい男へ避けもせずにぶつかる。
根岸の隣を擂り抜けようとしたところを、主馬が腕を捻り上げて拘束。
「掏摸は、いけねェなァ……!? ちょいと、番所まで来て貰おうか……!?」
内懐へ手を差し込めば、男に不釣り合いな紙入れがズシリと重たく乗し掛かった。
「おい、掏摸だ!!」
大抵、この類であれば誰もが足を止める。
御多分に漏れず、商人らしいのも足を止めて懐を弄っていた。
「有り難う御座います、有り難う御座います」
掏られた事に気付かず、のほほんとしてた様だ。
「どうしたんでえ!?」
少しガラが悪そうな男が数人現れ、主馬と根岸。
掏られた三十後半の小商人らしい男を囲む。
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