~第一話~ 今生の、一重に潜む縁の根

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「八丁堀だ」  粋な小銀杏髷に雪駄履き、黒五ツ紋の巻羽織へ袴とくれば八丁堀の証。  十手こそ帯びて無いものの、その装いだけで八丁堀与力と判る出で立ちだ。 「こいつは、御無礼を。あっしは、北番所の隠密廻り。志村様から鑑札を戴いてやす、源五郎ってチンケな遊び人でさ。こっちは、あっしの下っ引きで」 「南番所の例繰方与力、田嶋主馬だ。許す、縄を打て」  懐を弄るでも無く、源五郎が縄を持っている様子は無い。 「済いやせん、八丁堀の旦那。生憎と、あっしゃあ縄を持って無えんで……。こいつも、縄は持ってやせんし……」  そう云う主馬も、縄は持って居ない。  縄を持つのは、廻り方。  それも三廻りである常町廻り、臨時廻り。  隠密廻りしか、縄を持つ事が出来ないのだ。 「参ェッたな……」  幾ら頭を掻こうが、無い物ねだりは出来ない。 「おう、どうしたい?」 「ああ、志村さン。見ての通り、掏摸を取ッ捕めェたもンで」  ジロリと一瞥し、志村は捕り縄を出す。 「例繰方じゃ、縄が無えのも頷けらあな。よっしゃ、ここは任せな。廻り方の出番だし?」  そう云うと、北町を示す白縄を手早く掛ける。
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