~第一話~ 今生の、一重に潜む縁の根

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「御手数、お掛けします」 「良いって事よ。オヤジさんにゃ、伊呂波から世話んなったしな。まだ、恩返しして無かったのによ。その代わり、お前えに恩返えしすっからな。おら、このトンチキ、キリキリ歩けい」  もはや空気の根岸だが、田嶋を知る人間としては余計な口は差し挟みたく無いのだろう。 「それじゃ、後は……」 「おう、任しとけ。行くぞ、源五郎」  ほい来たと、志村の後ろに付いて源五郎は静かに去って行った。 「待ち草臥れたぞ、田嶋」  幾ら部下だとは云え、下の名前を呼ぶのは憚られる。 「申し訳有りませン。見ちまッたからにゃ、放ッて置けなくて……」 「オヤジさんに、そっくりだな。そう云うところは」  懐かしい者を見る様な根岸の遠い目を、主馬は見た。 「おっと、いけねえいけねえ。通り過ぎるところだったい。ここだ、ここだ」  そう云って暖簾を潜ると、威勢の良い声が来店を出迎えた。 「末ちゃん、鴨南二枚な。とびっきり美味えの、頼むぜ」  ドンブリでも二枚とは、これ如何に。 「あいよ」 「奥座敷に頼むぜ」  武士ならば、人目に着き難いところを陣取るのが躾。
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