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「それで、お話と云うのは?」
「うむ。人事異動だ。明後日を以て、お前えを当番方と念番方与力にする」
当番方と云えば、同心としては雑用。
与力の花形は、念番方である。
「それは、決まりですか?」
「ああ。筆頭与力の内村、念番方の中園も了承した」
先ず、間違い無く苦虫を噛み潰した様な顔だったろう。
自分より年下が何の実績も無く出世街道まっしぐらなのだから。
「しかし……」
「しかしも案山子も在るか。お前えのオヤジなら、たっぷり昼寝が出来るって間違い無く飛び付くぜ? 小田切土佐に聞いたら、毎日。外廻りばっかして、昼寝三昧だったらしいしな」
実際、田嶋はデスクワークが主業務の与力の中で唯一人。
日長一日、見廻りと称しながら度々サボっては昼寝していたのだから。
「俺ッちとオヤジは違います」
精一杯強がるが、根岸には通じない様だ。
「いいや、同じだね。だからよ。明日、八ツ前えに役宅へ来な。十手を渡す」
朱房の十手は、町奉行所役人
警察業務に携わる身分証明証。
現代で云うところの警察手帳や、検事バッジに該当する。
それを渡されるのは、刑事事件が担当と云う事なのだ。
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