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「!!」
朱也さんが蒼志さんの胸ぐらを素早く掴み後ろへと押し倒す。
「っざけんな! テメェがあんなボンクラを入れたせいで仲間が傷ついてんだろうが!?」
服が千切れんばかりに捻り上げ蒼志さんの顔の数センチ前で朱也さんが虎の如く吼える。
だが、蒼志さんも一切引かず目を反らす事無く反論した。
「…………じゃあ聞くが今日の営業中何かトラブルは起きたか?」
「!? そりゃ…………何も無かった…………けどよ」
「なら結果が全てだ…………何時も言ってるだろ? 営業は数字を追い求めるのが仕事だ…………堂島は確かに以前トラブルを起こしたが今回は何事も無く飲食の代金も頂いている以上は立派な客だ…………違うか? 違うなら反論してみろ」
「………………」
理の刃が突きつけられ朱也さんから言語を奪った。
確かに蒼志さんが言ってる事【も】正しい。
堂島は俺達のサービスと出された品物に対する報酬を支払った。
多くも少なくも無い正当報酬を。
でも、俺達はこれを貰ったら勝ちなのか?
俺は朱也さんの心でする仕事にも蒼志さんの結果至上主義でする仕事…………その両方にも共感出来る部分があったが、同時に両方とも共感出来ない部分もあった。
心と結果の融合…………真の理想の仕事とは何処にあるのだろうか?
「反論が無いなら手を離せ…………あるならこのままの状態で幾らでも聞いて何度でも論破してやる」
「……………………」
朱也さんの手が蒼志さんの胸から離れた。
理が心を凌駕した瞬間だった。
乱れたネクタイを正しながら立ち上がった蒼志さんは次に祈さんに視線を向けた。
「祈、今後の対策としてお前も厨房業務を朱也から教わって覚えろ………………それで堂島が来てる間奥に引っ込めるなら構わないだろ?」
「…………うん、分かったよアオ兄」
祈さんは目を合わせる事無く頷いた。
蒼志さんが次に俺を見る。
「歩は今日と同じく堂島が来た時のホールのメインだ…………しんどいかもしれないが、俺がホール補助で動くから我慢してくれ」
「分かりました」
適材適所の配置。
手際よく堂島来店時の陣形を決めた蒼志さんの店長代理としての手腕は流石の一言に尽きた。
でも、俺の心の奥底で【何か】が引っ掛かっていた。
果たして堂島はこんな小手先でどうにかなる人物なのだろうか? という懸念が…………。
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