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気を効かせたつもりの言葉だった。
だが、直後に祈さんから帰ってきた言葉はーー。
≪要らないって言ってるでしょ!? 要らないお節介とか止めてくれない!?≫
「……………………え? あ、すいません…………」
予想していた感謝の言葉とは違う怒鳴り声が俺の思考を奪った。
≪ゴメン…………言い過ぎた…………本当にありがとう…………また明日ね≫
「ハイ…………また明日…………」
電話を切った俺は腑に落ちないモヤモヤした気持ちで自分の分の弁当と飲み物を買ってコンビニを後にする。
何もあんなに怒鳴らなくても良いのに…………。
寮から片道五分程度の帰り道を憤りを感じながら歩いていた時、俺の目に一つの光景が飛び込んだ。
「やめてください! 離して!」
「良いじゃんかよぉ~! 今日はあんなにボトル入れて俺結構お金遣ったんだからさぁ~」
少し化粧の濃い二十歳ぐらいの女性とその腕を強引に引く中年の酔っ払いだ。
ああ、夜の商売の娘と客か。
夜の店の多いこの街ではあんまり珍しくない光景だ。
でも、それにしても酔っ払いがしつこい。
「アフターぐらい良いじゃん! 何もしないからさぁ」
「本当に困ります!」
ハァ…………飲みに行ったからって彼女じゃないんだから…………。
あまりのしつこさに見兼ねた俺は路上で揉み合いになる二人へ歩を進めた。
「あのさ、オッサン…………その辺で止めときなよ…………そんな望んで嫌われなくてもゆっくり仲良くなったら?」
「ああ? 何だぁ~?」
肩を叩いた俺の方へ振り返る酔っ払い。
うわ…………酒臭ぇ…………。
「だから…………嫌がってるんだから今日はやめといたらって言ってんの…………また明日でも明後日でもチャンスを待てば良いでしょ?」
「な、何だよお前!?」
酔っ払いが俺を見て驚く。
そうか…………やっぱいきなり背後に身長一八五センチもある奴が居たらビビるか。
「ね? 明日頑張りなよオジサン」
「うひゃ!?」
肩をポンポンと叩いた俺に勝手にビビった酔っ払いが走って逃げ出した。
「ありゃ、何も逃げなくても良いのに…………」
住宅街の暗闇へと消えた酔っ払いの背中を見送り俺は隣の女性を見た。
「大丈夫ですか?」
「ハイ! ありがとうございますぅ!」
女性は律儀に頭を下げた。
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