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余程怖かったのか涙が化粧を落としながら黒い涙が頬を伝っている。
「あ、これ良かったらどうぞ…………」
俺はポケットに入っていたタクシーのティッシュを手渡した。
すると、自分の顔の状態に気付いたのか女性は慌ててバッグからコンパクトを取り出して顔を確認する。
「やぁ~~、もう最悪ぅ!」
落ちたアイシャドウの黒い線をティッシュで拭き取りコンパクトをしまい改めて頭を下げた。
「何から何まで本当にありがとうございました! あの人本当にしつこくて困ってたんです!」
「まぁ、お仕事がお仕事ですから…………大変ですねぇ…………」
「本当にこの仕事は変な人も来るから大変ですよ! 今日あの人が幾ら遣ったか分かります!? 一万五千円ですよ!? 一万五千円!! 私そんなに安く見えますか!?」
いやはや値段の問題だろうか?
夜の商売に身を置いていると自分に幾らだとか価値を付けたがるのかな?
「ハハハ…………いや~見えませんよ」
俺は苦笑いしながらプリプリ怒る女性に相槌を打つ。
「本当に最っっっ低!! あの人お店が閉店する前に帰ったクセに待ち伏せしてたんですよ!? 待ち伏せ!!」
「うわぁ…………確かにそれは最低ですね…………」
「でしょ? 私何度もアフターは無理だってそれっぽく【サイン】出してたのに全然気付いてくれなくて…………」
ん? サイン?
「店から出た後に【後ろからつけて来る】辺りが本当に気持ち悪いでしょ?」
つけて……………………来る。
刹那、俺の頭の中で一つの不安が産声をあげた。
「あ、あの! 俺、急用を思い出したので失礼します!」
「あ、ちょっと!」
俺はまだ愚痴り足りなそうな女性を置いて寮まで駆け出した。
「ハァ…………ハァ…………」
俺は馬鹿だ! 何で気付かなかった!?
俺は祈さんの怒鳴り声を出会ってからの半年間一度も聞いた事が無い。
それが今日、【このタイミングで聞けた意味】に気付けよ!!
徐々に不安が頭の中で具体的な形を持つ。
もしも…………もしも既にアイツが【侵入していて】、もしも刃物か何かで脅されていたなら…………全ての辻褄が合う!!
「クソッタレが! 間に合えぇぇ!!」
深夜の住宅街を絶叫しながら走った俺は寮の二階へと駆け上がる。
そして、二0一号室の部屋のドアを乱暴に開け放った。
「祈さん!!」
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