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臨海都市であるここ神楽市(かぐらし)の駅前に一店の焼き肉店がある。
店の名前は【神ノ牛】(かみのうし)。
和牛を使った高級感を売りにした西洋風のシックな店だ。
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
午後五時、オープンと共に今日も威勢の良い四つの声が店内に響き渡る。
あの雪の日、この店で店長を勤める半田 恋太郎に拾われた俺は従業員用の寮があるこの店で世話になっている。
この店には、店長を抜いて俺を含めた若い四人の男女がスタッフとして働いている。
「歩! 二番テーブルの焼き肉ファミリーセットあがったぞ! 早く取りに来い!」
「ハイ!」
厨房から威圧感のある大きな声で俺を呼んだのは調理担当の桜井 朱也(さくらい あかや)。
俺より三つ年上で名前に合わせたのかは解らないが派手な赤色の短髪とキリッとした顔つきが特徴的な元ヤンキーで言葉遣いは怖いが面倒見が凄く良い兄貴肌のスタッフ内のリーダー的な存在だ。
「プププッ! 今日もアカ兄気合い入ってんなぁ…………気を付けないと今日も説教くらっちゃうぞアユッチ~~?」
「祈さん…………いい加減その女の子みたいな名前で呼ぶのやめて下さいよ」
厨房の前の少し長めの通路でスレ違いざまに酷くボーイッシュな口調で声を掛けてきたのは、俺と同じホールスタッフでこの店唯一の女性の桐島 祈(きりしま いのり)。
俺の一つ年上で栗色のショートカットの髪の前髪にいつも星形のヘアピンをした歳よりも幼く見える可愛い見た目のお客さんからも人気のあるこの店の看板娘だ。
「おい! 聞こえてんぞ祈! テメエは後で【説教部屋】行き確定だから覚悟しとけよ!?」
「え!? アカ兄、マジで?」
「大マジだ馬鹿野郎!」
朱也さんの怒声で一瞬で祈さんの顔が青ざめる。
ちなみに俺達が恐れる説教部屋とは、寮の朱也さんの部屋で約三時間掛けてコンコンと説教し続けながら厚紙の朱也さん特製巨大ハリセンで頭を叩かれる恐怖の拷問部屋の事だ。
「そ、そんなぁ~~………………」
その場に立ち竦む祈さんを横目に苦笑いを浮かべて俺が注文の品を取りに行くと、厨房の隣のレジ前からため息が聞こえ、そこにはレジ横のパソコンを操作する一人の男が居た。
「ハァ…………朱也よ、余り客に聞こえるようにスタッフを怒るなと何時も言っているだろう?」
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