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「す、すいません…………」
何時もそうだ。
この人の目には立場、関係性、常識が伴った【理】がこもってる。
目を見ただけで間違ってるのは自分の方だと気付かされるみたいな、そんな目だ。
「スタッフが失礼致しました…………お席へご案内致します」
謝罪と来店の挨拶を兼ねた一礼をスマートにこなし蒼志さんは堂島を席へと導いた。
「大丈夫ですかね?」
俺はその様子を玄関通路から見送り厨房から顔を出した朱也さんへと訊ねる。
「まぁ、アイツ(蒼志)が選んだなら大丈夫だろ」
席につき上機嫌の堂島を眺めながらポツリと呟いて朱也さんは厨房へと引っ込んだ。
ーーその後、俺の不安をよそに何事も無く閉店時間となり最後に残った堂島が会計を済まして今日の営業は無事に終了した。
「堂島、おとなしかったですね? 前回の印象が強かっただけで意外と良い人なのかもしれませんね?」
客席フロアのフローリングにモップを走らせながらフォローも兼ねて祈さんに訊ねると、テーブルを拭く祈さんの手がピタリと止まった。
文字通り時間が止まったみたいにピタリと。
「?? どうかしました?」
俺の質問に祈さんの肩が小刻みに震え顔を隠す様に俯いた。
「………………い」
「え? 何ですか?」
何事かを呟いた祈さんの顔を覗き込んだ俺はその時初めて【彼女の異変】に気付いた。
初夏とは言え空調の調った店内で額から止めどなく流れる異常な汗。
目はテーブルの一点を見つめたまま瞳孔が開かんばかりに見開かれていた。
「い、祈さん!? どうしたんですか!?」
慌てた俺が不用意に肩へ手を添えた途端に祈さんの肩がビクッと上がりヘナヘナとその場にしゃがみ込んでしまった。
「どうした!?」
俺の声を聞いた朱也さんが厨房から飛び出して来た。
「分かりません、祈さんが突然…………」
原因が分からない俺が首を傾げると朱也さんが駆け寄り祈さんの横へしゃがんだ。
「祈! 大丈夫か!?」
肩を抱くように手を添える朱也さんにようやく少し反応を示した祈さんが顔を上げた。
「アカ兄…………ダメだ…………やっぱり私、あの人怖いよ…………」
「あの人? 堂島か?」
朱也さんの問いに祈さんがコクリと頷く。
今日の営業を見る限り異変は何も無かった筈だ。
堂島の注文も全部俺が担当したから一言も話していないし。
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