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「何かされたのか? それとも言われたのか?」
祈さんは首を横に振る。
「じゃあ、なんだ? 俺が守ってやるから説明してくれよ…………な?」
子供を優しく諭す様な口調で訊ねる朱也さんに安心したのかようやく祈さんが重い口を開いた。
「目…………あの人が私を見る目が怖いの…………」
「目? アイツの目が怖いのか?」
頷く祈さん。
「大丈夫だって! 前に怖い思いしたからそう見えるだけだって! 気にすんなよ?」
祈さんは首を左右に振る。
「違うの…………あの人、ずっと私を見てた…………お肉が運ばれた時もトイレに行く時もずっと私を見てたんだ…………蛇みたいな目でずっと…………」
耐えきれず溢れた頬を伝う涙。
その涙が祈さんが感じた恐怖を物語っていた。
「……………あ」
俺は祈さんの涙を見て初めて思い出した。
確かに堂島はずっと祈さんを見ていた。
普通飲食店に来た客の思考は何処にある?
運ばれた肉、飲み物、トイレに行く時は行き先を見るだろう。
だが、堂島の視線は行動と伴っていなかった。
食事中も、トイレに立った時も、会計の時も、店のドアから出て行くほんの数秒間もそうだった。
一時も祈さんから視線を反らさなかった。
「う…………ぷっ」
堂島の異常性を思い返した俺の食道を鈍い痛みと一緒に胃酸がかけ上がる。
アイツの目的は最初から祈さん一人に向けられていたんだ。
その目は店の看板娘…………所謂高嶺の花に向ける憧れの目では無い邪悪な色欲の瞳。
「おい、歩…………お前も何か覚えがあんのか?」
俺の異変を察知した朱也さんが訊ねる。
「ハイ…………堂島は祈さんを狙ってる…………恋愛的な意味じゃなくてもっとこう…………上手く言えないですけど危ない目をしてました」
「マジかよ…………」
俺の証言にやっと具体的な状況が見えた朱也さんが言葉を失う。
と、その時だった。
いつの間にか俺達の背後に立っていた蒼志さんが口を開いた。
「くだらないな…………祈はトラウマで…………歩はそのトラウマを知っているから固定観念に囚われてるだけだろ?」
蒼志さんの言葉に反応した朱也さんの肩がピクリと跳ね上がる。
「んだと…………?」
祈さんの体からゆっくりと離れた朱也さんが立ち上がる。
ヤバイ…………キレる。
俺が思ったと同時に朱也さんが動いた。
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