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けど、一度だって。
【和聡】と比べてしまった唇は、これぽっちも美味しくない。
…だから厭なんだよ。
ベッドん中で、名前を呼ばれんのも。
和聡に「ぎん…」と、
名前を呼ばれるのが好きだった。
だから名前を呼ばれる度、思い出してしまう。
自分に組み敷かれている和聡の全てを。
「わり、離して…」
放った唇と一緒に、手で退ける女の体。
「え?何それ…」
意味が分からないのか歪む女の眉に、自分の眉も歪むのが分かる。
「はは、……なんでだろーな?」
渇いた笑いも零せば、女はナニカに気が付いたのか、チラリと後ろを向いた。
だけど、和聡が目を合わせたのは。
女じゃない。
それを見透かすように、また
オレの視界が、和聡を捕らえる。
あーあ。完敗だ。
ここまでされたら、まじ無理だっつーの。
もう名前の有無じゃ、ない。
今夜の火照りを、もしも冷ませる人間がいたとしたら、それは
【和聡】以外、ありえないんだ。
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