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ゴミを地面に捨てたら、勝手に回収してくれるロボット。
煙の出ない工場など、とにかく昔とは景色は大きく変わっている。
ただ、どんなに時間が経っても、この場所、この思い出だけは変わらなかった。
「着いた……」
その場所とは、俺の父さんが眠っている墓場だった。
俺はゆっくりと、その場所まで歩いて行った。
一歩一歩。
そして、俺の父さんの墓の前まで来た。
その墓の前で俺は一言こう言う。
「久し振りだね……父さん」
◇◇◇◇◇
-十年前-
俺は捨てられた。
何処か分からないゴミ箱に。
理由は今でもよく分からない。
だけど、捨てられた。
その日は、とても強い雨が降っており、寒かった。
まだ、小さかった俺は、捨てられたことが理解できず、ずっと母さんと父さんが迎えに来るのを待っていた。
だけど、いつまで待ってもこなかった。
「寒い……はやく来てよ、ママ、パパ」
弱くかすれた声でこう呟いた。
だけど、何度言ってもやっぱりこなかった。
俺はそのとき少し理解した。
あ……もう、来ないと。
自分は要らない子。
そう言えば、俺には兄がいた。
自分よりとても優秀で、何でも出来る兄。
だから、いらなくなったのだろうか?
出来の悪い弟なんていらなくなったのだろうか?
「寒い……」
もう駄目だ。
俺は死ぬ。
そう思いながら、その目を閉じようとしたそのときだった。
「大丈夫かい?」
「あ、父さん……?」
そこには、一人の男の人の姿があった。
雨に隠れて顔はあまり見えなかったが、何処か顔は父さんに似ていた。
そのときの俺には、その人の顔が天使に見えただろう。
自分を助けてくれるヒーロー。
そう……自分にとっての正義の味方だ。
「よかった、本当によかった……さぁ! 俺と一緒に家に帰ろう」
「お家? 僕……帰れるの?」
「ああ! お……いや、父さんが連れてってあげるよ」
「本当? 本当にいいの?」
「本当さ、君がよければだけど……どうかな?」
降りそそぐ雨の中で、一つの希望が俺に与えてくれた。
それはどんな物よりも嬉しく、今の俺が生きているのもそれのおかげだろう。
俺は迷う事もせずに、その人にこう言った。
「うん……僕を、連れてって」
「よかった、宜しく……頼むよ」
その人は、雨の中で俺を強く抱きしめた。
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