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玲二がレバーを引く数分前――
「…………」
血だまりの上で うつ伏せで倒れている黒斗の傍らで、恵太郎は放心しているようにボンヤリと座り込んでいた。
「…………やった…………のか? 兄ちゃんの仇を……とれた?」
ピクリとも動かない黒斗を横目で見ながら呟く恵太郎。
そんな彼は全身が血みどろとなっており、髪や顔からは赤い雫がポタポタと滴り落ちていく。
一方、黒斗の右足の付け根は悲惨なことになっており、損傷箇所には千切られた皮膚がブラブラと垂れ下がり、肉が抉り取られた部分は風通しの良さそうな穴が開いている。
彼の足元で散らばる固いような柔らかいような塊は、恐らくナイフで切り裂かれた肉片なのだろう。
もはや彼の胴と右足を繋ぐのは骨だけで、その骨にも鋭利な刃物で傷つけられた痕が ついている。
「……やったよ、兄ちゃん……! 俺、俺……ついに月影を!」
血糊がベッタリと ついた手で拳を握り締める恵太郎。
だが不意に明るかった部屋から光が消え失せ、暗闇が この場を支配する。
「なっ……!?」
いきなり暗闇になったせいで、視界が真っ暗となり先程まで見えていた己の拳さえも見えなくなる。
想定外の事態に、恵太郎は戸惑った様子で周囲に見えない目を走らせる。
すると頭部に何かが勢いよく ぶつかってきて、恵太郎は大きく吹き飛ばされた。
「……っ、てえ……!」
強かに打ちつけてしまった腰を擦りつつ上半身を起こし、恵太郎は目を細めて前方を見据える。
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