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「……………………ハアッ……」
そのままグッタリと脱力する恵太郎。
すると彼の後頭部に冷たく硬質な刃が当てられた。
「…………力に溺れず、自分の意志を貫き通したことだけは評価に値するな」
「ハッ……お前に褒められても嬉しくねえよ」
軽口で言う恵太郎だが、その目からは涙が零れている。
「……結局…………兄ちゃんの仇を……とれなかっ、た……ぐ、うぅ……ヒグッ……」
涙と鼻水、そして血で汚れる顔。
「兄ちゃん……兄ちゃん……ウエェ……」
「みっともなく泣くな。泣いたって何も状況は変わらない……惨めになるだけだ。それに……この結末も……お前が選んだ選択の結果だ」
淡々と言う黒斗だが、恵太郎の涙は止まらない。
「…………お前には分からないだろうけどな……兄ちゃんは俺の特別だったんだ……。
兄ちゃんは、おふくろや親父と違って無条件に甘やかすだけでなく……俺が悪いことをしたら、ちゃんと叱ってくれたんだ。
スゴく怒ってるような悲しんでるような顔をして…………叱って、くれた」
恵太郎の脳裏に兄との思い出が次々と走馬灯のように過る。
「恵太郎っ! お前は命を何だと思ってるんだ!!」
まだ恵太郎が小学2年生だった時、自室でカエルの腹に画ビョウや鉛筆を刺して遊んでいたのが見つかった時の伸也の言葉。
串刺しとなっているカエルを見た途端に激昂し、怒鳴りつけてきたが恵太郎は気にも止めずにカエルの目玉にシャーペンを突き刺す。
「やめなさい!!」
伸也が手を振りかぶり、恵太郎の頬を平手打ちする。
「…………は?」
一瞬 何が起きたのか恵太郎は分からなかったが、頬がヒリヒリと痛みだすのを感じ、殴られたのだと理解する。
それと同時に生まれて初めて殴られたことに怒りを覚え、手にしていたカエルを床に叩きつけて伸也を睨んだ。
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