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「う゛ぉお゛ぇええっ!! ゲ、ゲヘッ、ゲッ」
清菜が身体から離れると同時に咳き込み、唾や口内に残った赤い液体を吐き出す松美。
咳きこむ度に額の痛みは増していき、目眩までしてきた。
「……これで本当にお別れよ」
そう呟きながら清菜は松美の着ているズボンのポケットから彼女の携帯を取り出すと、彼女の右腕を鷲掴みにしてズルズルと玄関へと引き摺っていく。
「さよなら。携帯は警察とかに連絡されると困るから、没収ね」
玄関に辿り着いた清菜はドアを おもむろに開くと、痛みに呻いている松美を乱暴に外へと放り出し、素早い動きで扉を閉めて鍵をかけた。
「………………せいなさん…………たすけ、なくては……」
激痛を訴える額を押さえつつ、立ち上がってアパートの出入り口を目指して歩く松美。
目眩のせいで視界は大きく揺れ動き、気が遠くなりそうなほどの激痛が彼女の歩く速度を遅めるが、それでも松美は歯を喰い縛って歩き続ける。
“友達”を助ける為に。
「……せいな、さん、ホントは……さみしいだけだった……つらくて、教団に逃げただけ……だか、ら……過ちを正して……正しき、道に……」
フラフラと歩みを進める松美の脳裏に浮かぶ兄の姿。
「……にいさまなら、きっと……せいなさんを……正しき道に……導ける……」
己の意志を継ぎ、清菜を説得できるのは大好きな兄しか居ない。
そう考えた松美は兄が待つ自宅へと向かっていった。
──私……死んでしまうのでしょうか
──いや、死にたくなんかない
──お兄様へのプレゼントだって、ちゃんと手渡しをしたかったであります……
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