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「……と、まあ こんな感じね。松美ちゃんは私に自首をしろとか言って、味方をしてくれなかった。だから殺したのよ」
どこか自慢げに松美に試練の水を飲ませた時のことを、事細かく語る清菜。
一方 内河は血走った目を大きく見開き、放心したように その場でボーッと立ち尽くしている。
「どうしたんですか? あまりにもショックが大きすぎて言葉も出ませんか?」
歪に吊り上がる清菜の口角。
爆笑を堪えるかのように歪んだ唇を押さえる その仕草からは、内河の反応を面白がっていることが ありありと見てとれた。
「正直 言って私、貴方のこと嫌いだったんですよね……いつもいつもバカみたいにうるさくて。だから貴方が悲しんでいるのを見て、今すっごく快感ですよ」
ざまあみろ、とばかりにクックッと笑う清菜。
「……ウソ、だ」
不意に口を開き、首を横に振り始める内河。
「お前の言ってることなんか全部ウソだ!! 俺を騙そうったって そうはいかないぞ! 松美は……何処かで生きてて助けを待っている! 松美が死んだなんて……俺は信じない、信じないぞっ!!」
「信じないのは貴方の勝手ですけど、松美ちゃんが死んだ事実は変わりませんよ」
「うるさい、うるさい!! 何がアナスタシオス教団だ! ……ハッ、分かったぞ……松美は この教団の本部に閉じ込められてるんだな!」
頑なに松美の死という現実を受け入れようとしない内河の往生際の悪さに、清菜は呆れを通り越して感心する。
「たかが妹が1人死んだくらいで大騒ぎですねえ。鏡で自分の顔を見てみたらいかがです?
青ざめた顔から脂汗がダラダラ流れて、涙と鼻水でグチャグチャに汚れて……みすぼらしいったら ありゃしない」
「俺の顔なんか どうだっていいんだっ!! それより松美、松美の居場所を言えええぇぇ!!」
アメジスト色の瞳に狂気の光を宿し、清菜の肩を掴んで揺さぶりだす内河。
壊れた人形のように何度も松美の名を呼び続ける内河の姿は、今の清菜には滑稽(こっけい)に見えた。
(ああ うっとうしい……簡単に引き下がってくれそうにないし、やっちゃうか)
右手に持っている小瓶に視線を落とし、ほくそ笑む清菜。
松美と徳井に使った分 減ってしまっているが、人間1人分の致死量は残っている。
飲ませるのではなく、直接 彼の頭にかければ簡単に殺せるだろう。
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