Episode 10 拒絶

176/186
前へ
/995ページ
次へ
「何度目だ?」 「…………」 黒斗の問いに答えず、焦点の合わない虚ろな瞳で彼を見る清菜。 そんな彼女の心には、“死”に対する恐怖と“生”に対する執着だけが渦巻いていた。 ──死にたくない、死にたくない、死にたくないっ! ──やっと この世界から解放されて、楽園で幸せに生きていけると思っていたのに…… ──こんな所で死神なんかに殺されてたまるものですか!! 死にたくないという確固たる思いを胸に、清菜は震える己の足を叱咤して立ち上がり、黒斗を鋭い眼光で睨みつけた。 「わた、し! アンタなんかに、殺されたりしないっ! 絶対に、逃げ切ってやる!」 そう叫ぶと清菜は踵を返し、足を もつれさせながら玄関へと走り、素早い動きで扉を開いて外へと飛び出していった。 「……最後まで見苦しい奴だ……逃げられる訳が無いというのに……」 扉が開け放たれたままの玄関から聞こえてくる、鉄製の階段を駆け下りていく騒々しい音に溜め息をつきながら呟く黒斗。 気だるそうに首を回した後、彼女の後を追うべく玄関に向かおうと一歩 足を踏み出した刹那、内河が仁王立ちで彼の前に立ちはだかった。 「……何の真似だ」 感情がこもっていない冷たい声で問いかけるも、内河は何も答えず、彼の前から退こうともしない。 内河が何を思って こんなことをするのか分からず、黒斗は首を傾げて彼の様子を窺う。 「……お前、清菜さんを殺すつもり、なんだろ?」 不意に呟かれた言葉に、黒斗の眉がピクリと動く。 「……あの女が死のうが生きようが お前には関係ないだろう……まさか、庇うつもりか?」 「何が悲しくて、あんな女を俺が庇うんだよ? 俺はアイツから松美の居場所を聞き出したいだけだ、ソレが済んだら好きに殺せばいい」 荒い息づかいをしながら こう述べる内河の目は完全に据わっており、正気の沙汰ではないことを物語っていた。 そんな彼と対峙している黒斗は一瞬 言葉に詰まるものの、すぐに気を取り直して口を開く。 「……お前の妹は死んだんだ。もう何処にも居ない……いくら探しまわっても、永遠に見つかることはない」 「……っ」 黒斗の言葉に息を呑み、視線を泳がせる内河。 目の前で無惨に死んだのが松美だと、彼も心の何処かでは分かっているのだろう。 だけど その残酷な事実を簡単に受け入れることが出来るほど、内河は強くないのだ。
/995ページ

最初のコメントを投稿しよう!

659人が本棚に入れています
本棚に追加