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「………………まつ、み…………お兄ちゃん……こんな、弱い お兄ちゃんで、ごめん、な……」
1人残された内河は、力尽きたように その場で膝をつき、消え入りそうなほど か細く弱々しい声で呟きながら涙を流した。
その言葉は何処かで生きている妹に向けたものなのか、それとも目の前で死んだ妹に向けられたものなのか――真意は内河にしか分からない。
その頃――
メゾン・ド・ケイシンから逃げ出した清菜は、夜の街――それも人目につきにくい裏路地などを宛もなく走り続けていた。
その間にも折られてしまった右腕に激痛がはしっていたが、殺されまいと必死に走る彼女には そんな痛みに構っている余裕など無かった。
「ハァー……ハァー……」
長い間 走り続けていたせいで息が切れ、渋々 立ち止まって呼吸を整える。
(あ、あの死神……追ってきてないわよね?)
乱れた呼吸を整えながら、狭い裏路地を見渡す清菜。
その周辺には死神どころか人の気配すら無く、彼女は安心したように吐息を漏らして額に滲んだ汗を左腕で拭う。
(……あっ、何で私 走って逃げてんのよ……)
落ち着きを取り戻したことによって、大切なことを思い出した清菜は しまったとばかりに自分の顔を左手で覆い、舌打ちをした。
(……ていうか……私ってバカよね……必死に走ってて本部に逃げることを忘れてたわ……)
自嘲の笑みを浮かべながら清菜は自分のスマホを取り出し、ある番号を入力して電話をかける。
すると彼女の目の前に、死神が使うものと同じ黒いゲートが開いた。
(……最初から これで逃げれば良かったじゃん……まあ、いきなり死神が出て来てビックリして慌てたから仕方ないか)
自分で自分に呆れつつ、ゲートに視線を移す清菜。
今 彼女が開いたゲートは、アナスタシオス教団の一員のみが使うことを許されたものだ。
試練の水を飲んで生き残り、教団の一員として認められたものは いつでも本部に出入り出来るようゲートを開く番号を教えられ、その番号に電話をかければ、本部に通じるゲートが瞬時に開かれるという仕組みである。
そしてメゾン・ド・ケイシンに ずっと居た筈の清菜が試練の水を持っていたのも、このゲートを通って本部から取ってきたからだ。
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