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(な、に…………)
違和感がある頬に左手を当てると、いつもの柔らかい触感ではなく、ベタついた液体が手に付着する感覚がした。
すぐさま左手を頬から離して、手についた何かを確認する。
すると どす黒い液体が手のひらにベッタリと付着していることが分かった。
「キャ」
清菜が悲鳴をあげようと口を開いた瞬間、肉が裂ける音ともに口端(くちは)から耳元に かけて はいっていた亀裂が ぱっくりと裂けて開き、そこから 赤黒い血液が噴出した。
「おぇあぇあああ゛あ゛ぁ゛」
野太い悲鳴と共に噴き出す血と、頬を中心にはしる気を失いそうな程の激痛。
あまりの痛みに耐えきれず、清菜は地面で無様に転げまわるも、それが苦痛を消してくれる訳でもなく、ただアスファルトを血で赤く汚していくだけだ。
(いだいいだいいたいいたたいいたいいたいたいいいいああいううぉぉぐぅあぅ!!)
止めどなく血が噴き出し続ける清菜の顔は、とても悲惨で醜い状態となっており、かつての美しさは欠片も残っていなかった。
まるで笑っているように見える顔の亀裂。
その裂け目からハッキリと見える、所々が深紅色に染まっている歯茎(はぐき)と歯。
大きく開かれた口の両端から耳元まで大きく裂けてしまった彼女の姿は、まさに口裂け女そのものだ。
見るも無惨な姿となって苦しむ彼女を黒斗は冷ややかな眼差しで見下ろす。
「……確かに お前の家族は、今すぐに お前の性格を変えようと急ぐあまり自分の考えや思いばかりを主張していた。
お前の良い所も悪い所も全て否定して、ひたすら自分の理想と価値観を押しつけていたのは確かに褒められたものではない。
……だが……それは お前も同じだ」
ポツリポツリと呟く黒斗だが、苦悶している彼女に その声は届いていない。
しかし それでも黒斗は言葉を続けた。
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