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「………………」
無言のまま、何の感情も感じられない冷めた目で清菜の亡骸を一瞥する黒斗。
彼女の魂が朽ちたことを確認すると、清菜の首を貫通してアスファルトに突き刺さっているデスサイズを引き抜き、ヒュッと振って切っ先に付着している血液を払い落とす。
血を払い落としたデスサイズを消し、清菜の亡骸の側に片膝をついて 彼女の服についているポケットをまさぐると、目当ての物が見つかり黒斗は それを持って ゆっくりと立ち上がった。
「……遺品は、遺族に返しておく」
松美の携帯を片手に黒斗は そう呟くと、踵を返してゲートを開いた。
「…………」
開いたゲートへと歩み寄っていく黒斗だったが、不意に違和感を覚え、ゆっくりと振り返って清菜の亡骸を一瞥する。
(…………おかしい…………魂が朽ちた後ならば、肉体に与えたダメージは すぐに回復する筈だ……なのに……篠塚の肉体は全く再生していない……)
漠然としていた違和感が確かな疑問へと変わり、黒斗はゲートを消し去って清菜の元に駆け寄っていく。
すると次の瞬間、肉が裂ける生々しい音と共に脇腹に激しい痛みを感じた。
「なっ……」
反射的に痛みがはしった脇腹を見やると、まるで鋭利な刃物で斬られたかのような傷口と大量の出血があった。
続けて己の脇腹から清菜の遺体に視線を移すと、力無く地面に倒れ伏していた筈の清菜の身体が、首を失い切断面からダラダラと血を流した状態で起き上がっていた。
さらに目を凝らすと、彼女の赤く染まった左手から血液がポタポタと滴り落ちているのが見え、黒斗は自分の脇腹を切り裂いたのは首が無い状態で動いている清菜であると確信する。
「…………傷が回復していないと思ったら、まさか遺体が動き出すだなんてな……」
まるでゾンビのように傷口から止めどなく血を流しながらフラフラと歩く清菜を見て、内心 動揺する黒斗だったが、それを表情には出さずに先程 消したばかりのデスサイズを再び取り出す。
「……どういう原理で動いているのか知らないが……やるしかないようだな」
覚束(おぼつか)ない足取りでありながらも素早く こちらへ向かってくる清菜を真っ直ぐに見つめつつ、黒斗はデスサイズを構えて戦闘態勢をとった。
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