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“お前を迎えに来た”
そう言ってウンデカが差し出してきた手を、黒斗はボンヤリと見つめる。
いきなりの展開に頭が追いついていないようであり、彼は少し混乱している思考を落ち着かせつつウンデカの顔を見上げて口を開いた。
「……迎えに来たって、どういうことだ? 別に俺は お前を待っていた訳じゃないんだが」
動揺を見透かされないように敢えて刺々しい口調で話す黒斗。
しかしウンデカは彼の虚勢に気づいているようであり、眼球だけを下に動かして見下すように黒斗を見つめた。
「忘れたのか? お前を人間界に逃がした あの日 私は言った筈だ。いつか必ず迎えに行くと……」
「……迎えに……」
ウンデカの言葉を聴いた黒斗は腕を組んで、108年も昔の記憶を回想し始めた。
暴走状態となって冥界を ほぼ壊滅状態に追い込み、“父”であるタナトスに殺されかけ、ウンデカに逃がされた時、彼が何を言っていたのかを思い返す。
“ナンバー4、貴様は もっと豊かな心を育み、力を強めろ。いつか必ず、お前を迎えに行く。その時は、共に神々へ…………”
記憶を探り、ウンデカによってゲートの中に蹴飛ばされ、意識を失う寸前に聴いた彼の言葉を思い出した黒斗は合点がいったように手を叩いて俯いていた顔を上げた。
「……そういえば そんなことを言っていたな。忘れていた」
「忘れていた、だと? 命の恩人である私の言葉を忘れるとは大した神経の持ち主だ」
「てっきり お前はタナトスに殺されたんだとばかり思っていたから、特に気に止めていなかったんだ。しかしタナトスに逆らって、よく助かったものだな」
警戒心を露に目を細めてウンデカの様子を窺う黒斗。
ウンデカが何をしてきても対処出来るように、デスサイズを強く握り締めて身構える。
するとウンデカは黒斗の言葉を鼻で笑い飛ばし、腰に左手を当てて どこか得意気な表情で言葉を紡いだ。
「タナトスのように、己の力を過信している者ほど付け入る隙は多い。ちょっと意表をついてやれば、簡単に逃げられたさ」
「……胸を張って自慢するようなことではないな」
軽口を軽口で返す黒斗。
口調とは裏腹に彼ら2人の間には、互いに腹の内も隙も見せないよう気を張りつめている緊迫した空気が流れている。
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