第1章

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万の母親は娘夫婦を案じて、形見の刀を届けに来る途中で、万策尽きた平太に刀を奪われて殺されたのだ。 しかし、万策尽きた平太の苦しみを知る万には、それを口にすることはできなかった。 しかし、万が黙っていても、殺されたのが隣村の母親のこと、すぐに話は平太の耳に入った。 平太は、母親を殺した己の罪を責めた。そして、万はそのことを知っていて何も言わないのではないか?万は俺の苦しみを知っているから俺を責められずにいるのだ。そう思った。刀は八兵衛の使いに渡された。これで、平太と万の暮らしは、もとのように貧しいながらも、どうにか生きてゆけるはずだった。 ある日、万の留守に、 「すまぬ」 と、一言、書き置いて、平太は、「うなぎ掻き」で、喉を突いて死んだ。 そして、万は、平太の弔いを済ませると、 「母さん、あの人を許しておくれ!」 そう言うと、深瀬川の淵に身を投げた。 やがて、阿弥陀寺の鐘は立派にできた。 しかし、寺の小僧が鐘を撞こうとすると、鐘の中に白い帷子を着た痩せた女の腰から下だけが見えた。また、鐘を撞くと女のすすり泣きが聞こえるというので、誰も恐れて、鐘を撞かなくなったという話である。
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