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くすっと、トマが笑って言う。
「本当の名前は成穂冬麻(せいほ とうま)。
検体名が『TOMA』。」
彼から採取した組織のサンプル表記は、確かにそうだった。
彼は人間だが、ここではもう、その存在が別の物になっていた。
俺は何と言っていいか言葉に詰まる。
すると、トマの方から話し掛けて来た。
「ちづるさん、僕と同じ歳なんですってね。
研究も遺伝子専門でしょ?」
同い年とは驚いた。
トマは俺よりずっと幼く見える。
それにしても、俺の事をよく知っているようだ。
「きみは他人に興味があるんだね。」
「誰にでもじゃありません。」
その口振りは、まるで俺に興味があるように聞こえる。
戸惑う俺に、トマがまたくすっと笑う。
…ああ、そうか。
からかわれたんだ。
彼にとっての暇潰しか…。
トマの1日の予定、と言っても、殆ど何も無い。
毎朝の採血が終われば、食事と睡眠の時間が決められているだけで、後は部屋の中で自由に過ごして良い。
自由に。
俺はこの時から少しずつ、自由の意味を考えるようになった。
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