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職員の格好との対比もそうだが、この施設内に子供がいるのが不自然だった。
見学など有り得ないし、親らしき人物も見当たらない。
立ち止まって目で追っていると、加賀が俺を急かして次のドアに向かおうとする。
俺は途中まで従ったが、胸騒ぎがして振り返った。
彼らはもう、扉の中に消えていた。
その時、悲鳴が聞こえた。
廊下と廊下を区切る遮蔽扉は防音効果もあり、中で何か起きても声は届かない。
しかし俺の耳に、はっきりとトマの叫び声が響いた。
俺は止めようとする加賀を振り切ってドアに飛び付き、ロックを解除して中に飛び込む。
ガラスの向こうに、驚くべき光景を見た。
中にいるのは、トマの他に先ほどの集団。
防護服の職員の周りで、無防備な子供達が戸惑いを顕にしている。
トマは悲鳴を上げていた。
喚きながら壁の隅まで逃げるが、そんな事をしても不可抗力だった。
彼は俺を見付け、よろよろとこっちにやって来て、ガラスの前で崩れ落ちた。
トマは泣いていた。
ガラスに拳を打ち付け、大声で泣く。
俺も恐怖と悲しみに心が砕けた。
子供達は、全員感染した。
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